論文の紹介
田下昌志ら(2005) 住民の参加によるチョウ群集のモニタリング
日本環境動物昆虫学会誌 16巻1号: 9-16.
本論文は、住民参加によるモニタリング調査の有効性の検証や、調査を通じて住民が環境に関心を深めることを目的に、長野県松本市犀川の草木の生育した堤防付近でチョウを指標とする環境モニタリングを実施した結果をまとめたものである。
調査では、チョウに詳しい熟練者と非熟練者(昆虫に関心のある一般住民を想定)とが同じルートを歩きながらチョウの種類と個体数を数えた。 調査の前に、参加者に現地で見られるチョウの簡易図鑑が配布された。調査結果を分析するために、群集構造を評価するための種多様性を表す様々な指数や変動係数が用いられた。
分析の結果、熟練者は非熟練者よりも種数と個体数とも多く確認し、非熟練者は種数、個体数とも個人差(変動係数)が大きく、特に、個体数について個人差が大きかった。しかし、参加者数が多いと確認できた種数は増加した。
従って、非熟練者による調査は、個体数の調査には効果的でないが、多くの者が参加すれば種の分布の確認については効果的であると述べられている。また、調査ルートが異なると、確認される種数に有意な差異が認められた。
チョウの群集構造の評価にあたって用いられた指標は、シャノンの平均多様度、シンプソンの多様度指数、RI指数、環境階級存在比、環境階級度およびHI指数であるが、熟練者と非熟練者とでは、
シンプソンの多様度指数、環境階級度およびHI指数のそれぞれの平均値間で大きな差がなく、住民参加による調査によっても一定の環境指標値が得られることが分かった。
著者らは、種の分布調査に当たっては、より多くの住民が参加し、必ず識別能力のあるリーダーが同行して、あやふやな種を確認しながら行うことが望ましいとしている。
本論文の結論として述べられていることは、かなり常識的なことと思われるが、実際の調査データの分析に基づいて明らかにされたことに価値があると思われる。
住民参加による自然学習や、環境評価が今後ますます重要になると思われるので、本論文は住民参加による調査を行う際の参考になると思われる。(2008.4.25
M.M.)
(写真:ベニシジミ)
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